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東京家庭裁判所 昭和50年(少ハ)5号 決定

本人 D・T(昭三〇・八・一生)

主文

本人を昭和五〇年一一月三〇日まで少年院に継続して収容することができる。

理由

本件申請の要旨は、本人は現在一級上に進級し、昭和五〇年五月末ころ仮退院が許可される予定であるが、能力の高い割に言行の一致しない性格や仮退院を目前にして反則行為を行う行動とか問題の多い受入環境に照らして、仮退院後少くとも本年一杯くらいは引続き保護観察の必要があるので、本人が満二〇歳に達し、収容期間が満了する昭和五〇年八月一日以降同年一二月末日まで収容継続を求めるというのである。

本件のように、専ら仮退院中の法定観察期間の延長を目的とした収容継続が許されるか否かは説の分かれるところであるが、本人の犯罪的傾向がまだ矯正されていないため、本人の受入態勢などとあわせ考え、収容期間の満了後も引き続き保護観察に付することが本人の再非行の防止のために不可欠と認められる場合には積極に解しうるものと思料されるところ、当裁判所の調査及び審判の結果によると、

1  本人は、少年院に入院の当初はまだ独善的な行動や自己顕示的な振舞いが多く、院内の教育を甘くみて処遇になじまない面もみられたが、その後処遇方針を理解してか態度も改まり、もちまえの能力の高さに加えて努力も重ねたため好成績を収め、昭和五〇年二月一日一級上に進級し、同月一三日仮退院を申請されるに至つたが、反面、右仮退院の申請直後にあたる同月二二日母親との面会に際し、母親が不用意に出した和菓子を規則違反と知りながら、この程度のことはたいしたことはあるまい、黙つておればわかるまいと高をくくつて寮舎内に持ち込み、謹慎三日に処せられ、右反則により仮退院の予定時期を一か月遅らせるという事態を招いたものであつて、これまでもほぼ似通つた事情により思いもよらない非行を繰り返えしていることとあわせ考えると、その性格ないし犯罪的傾向はまだ十分には矯正されていないものと解されること

2  出院後は母親が専ら本人の保護に当ることになるが、母親は少年に愛情を傾け、その保護に人一倍腐心しているものの、過保護でとかく感情に流れやすく、本人と意思の疎通を欠くばかりか、度重なる本人の非行に全く自信を失つており、その保護能力にはほとんど期待できないこと、

3  本人は、仮退院後各種学校である○○○電算機学院に進学し、情報処理技術者の資格をとつて将来コンピュータの技術者として働きたいとの意向であるが、高校一年中退の学力しかないため、はたして本人が学校の授業についていけるか危惧なきをえず、またもし不幸にして能力が及ばない場合、自尊心の強い本人がよくその場面に対処しうるかはなはだ問題であること

4  本人が入院前に交際していた年上の女性との関係について、本人は清算するとはいうものの、その意志は決して確固としたものではなく、仮退院後の事情いかんによつては逃避の場として交際が復活する可能性が高いこと

が認められる。

とすれば、本人については、その将来の希望進路からみても、収容期間の満了をまたずなるべく早く仮退院させることが適当であると解されるものの、叙上のように、本人の性格並びにその犯罪的傾向はまだ必ずしも矯正されてはおらず、しかも、受入態勢の不備等上記の各問題点に照らし、本人の進路の見通しがそれまでにはほぼつくであろうと予想される仮退院後の六か月間は少くとも専門機関による適切な補導援護が不可欠であると解される。

とすれば、本件申請はその限度において理由があるものというべく、少年院法一一条四項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 栗原平八郎)

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